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「あゆち」思想の源流を探る⑨ 「武」の系譜-熱田神宮とあゆち
(2009年7月25日 10:26)

前回述べたように熱田神宮に祭られている草薙の剣は、風のシンボルとして表わされています。日本武尊は、敵に追い詰められて水際を背にして立った、そのとき剣を抜いて草を薙ぎ払った。その薙ぎ払った草に火をつけると、風が起こり敵を退散させたという。この焼津の浜のエピソード以降、草薙の剣は、知恵の象徴として語られるようになったのです。

「武(ぶ)」の意味をもう一度、思い起こしていただきたい。戈(ほこ)を止める。外敵から身を守る、つまり外からの侵入を防ぐことです。究極的には自らの心の平和を守ること。これが本意です。外からの侵入を排するということは、つまり、自分になじまないものを心に入れない。他者との比較、名声、評価といったような外部情報を基準とした物差しで自分を判断しないようにすることです。これが心の平静さを保つ秘訣です。

自分が人と違っていることによって疎外感を感じる人がいます。人は人、自分は自分という、自分に対して不動の信頼を持つべきです。日本武尊の焼津の浜のエピソードは、「自分の心を守る」という大切な心構えを教えてくれています。自分の心は自分でなければ守れない。もし自分の心に自分になじまない性質の考えが入り込んだ場合、苦しみを生じることになりますから、即座に排除しなければなりません。そういった雑草的な思いが生じたとき、なぎ払うために剣を使う。心の中に雑念や妄想がはびこるようなら、それを切り捨て焼き払ってしまえ。そうすれば、風が起こる。自らの内側、つまり天(海)からの風が吹きおこる、この風は知恵という形で内なる世界から外なる世界に持ち来らせるものであります。このように焼津の浜のエピソードを境にして、天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)は草薙の剣と名前を変えた。風を起こす知恵の剣、草薙の剣として祭られた。このように私は思います。

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尾張地区の祠では真中に熱田神宮、左右に秋葉神社、津島神社を祭る

面白いことに草薙の剣が祭られている熱田神宮は七里の渡し場のちょうど北にあたり、南から吹いてくる「あゆち」(海から吹き渡ってくる幸福の風)を向かい入れる形となるのです。かつて七里の渡し場には、ちょうど伊勢神宮の一の鳥居が桑名の七里の渡し場に立っているように、浜の鳥居が立っていました。熱田神宮の一の鳥居は、金山(熱田神宮の北)の西あたりにありましたから、浜の鳥居はおそらく浜の風(あゆち)に向けて建てられたものだったのでしょう。浜の鳥居をくぐった風はそのまま熱田神宮に吹きあたる、そこに草薙の剣が祭られている。そして浜の鳥居の向こう側、風の吹き来る先に伊勢神宮があるという構図になります。伊勢は磯であり、常世(あの世)から吹いてくる風と思い描いたのかもしれません。

また別の説では、「あゆ」は良質の水が湧き出すことを意味していたとも言います。知恵が湧き出すように、豊かなインスピレーションの泉を私は想像します。

(石浦薫)

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